vol.3「ゆるい」イラストで「難しい」をわかりやすく伝える
- Date:
- 2022.02.03
- Name:
- KAORINGOさん |
イラストレーター
Creator's profile
1979年生、大阪在住。
販促会社勤務時、オーダーに合わせたタッチを描き分けることができるようになる。
現在はゆるくて可愛いイラストで主に活動中。
難しい題材もわかりやすくなると好評で、販促物の挿絵やPR漫画の依頼も多数。
アート活動もしており、近畿圏を中心に個展を開催。グループ展にも多数出品し、百貨店の催事にも参加。ギャラリーの壁にペイント、イベントで似顔絵描きなどニーズに応じた仕事も手がける。
代表作は南海電鉄の世界遺産記念ラッピング電車イラスト。
第3回はイラストレーターとしてフリーランスで活動されている、KAORINGOさん。
KAORINGOさんにイラストレーターのお仕事についてインタビューしました。
はじめまして、本日はよろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
早速ですが自己紹介をお願いします。
「お!コレええやん!」と言わせるイラスト、マンガ、デザインを提供しているKAORINGOです。
イラストカットやキャラクターデザイン、子育て漫画や企業PR漫画を得意としています。
週末は旦那さんの経営する串カツ屋で女将もやっています。
KAORINGOさんは昔からイラストレーターとして活動されているんですか?
昔からというか私の場合少し曖昧なんですが、8年ぐらいですね。
それまでPOPの制作会社でデザイナーとして働いていました。
POPってチラシとかですか?
そうです。販促デザインですね。
新商品の飾り付け、スーパーなどによくある催事を演出するものの印刷物のデザインやキャンペーンの企画、テーマパークのお土産物のパッケージデザインなど様々です。
化粧品だと商品の周りに飾っている台など、形状デザインもやっていました。
関西の会社なんですが、お付き合いする業者は幅広く、メーカーさんの規模も大きかったです。
どのくらい勤められたんですか?
ハタチから12年弱ぐらいです。最初の3年は使い物にならなくて、下積みからスタートしました。
ハツラツと元気なKAORINGOさん
本当は職人になりたかった
未経験でのスタートだったんですね。デザインはもともと学校で学ばれたんですか?
はい。
デザイン学校でイラストレーションや雑貨などを勉強していました。
私本当は職人になりたかったんです。
大道具さんとか、舞台美術さんになりたかったので、夏休み返上でバイトに行ってたんですよ。
えーそうなんですか。
女性で職人って珍しい気がします。
そうですね。
職人を目指して就職活動もしたのですが、その当時は時代的に男の人を採用する傾向にあったので、中々就職活動がうまくいかず、看板屋さんも行ったけどダメでした。
最終的に受かったのがデザイン会社だったので、最初はしょうがなく就職した感じです。
そうだったんですか。就職してどうでしたか?
入社してから3年は上司にずっと怒らながら仕事をしていましたね。
そこですごく揉まれました。
職場の雰囲気も悪かったし、辞めようと何度も思ったんですが、唯一自分のことを理解してくださった上司から「何の成果もあげられていないのに辞めるの?」って言われたんです。
悔しかったし絶対成果をあげてやるぞって続けました。
3年ぐらい経った頃から徐々に自分の仕事に手応えを感じたんですか?
そうですね。人から見たらどうかはわからないですけど、楽しくやらしてもらったなと思います。
仕事のあり方ですか?
デザインの仕事だけでなく、関わってくださる各部門の皆さんといかに同じ方向を向いて仕事ができるかということに重きをおくようになりました。
言い方とか、話すタイミングとか気をつけられたんですか?
はい。すごく言葉にこだわる方だったので、指示の出し方一つでもちゃんと伝わるようにというのは気をつけていました。
色々試行錯誤されながら環境を変えられたんですね。その職場はご結婚を機に退職されたんですか?
結婚後は3年ほど続けて、出産を機に退職しました。育休を申請していたのですが許可が中々おりなくて、「復帰後も今と同じぐらい働けるか?」と聞かれて・・・
バリバリ仕事をされていた時と生活が変わって寂しくはなかったですか?
そうですね。
え、そうなんですか。
旦那さんの方は職場でなので、私が支えてあげれることが少なくて。
ご自身もうつで大変な状況なのに・・・
そう!実は父親も出産前に倒れて、何重苦なのよって(笑)
KAORINGOさんは週末ご主人の居酒屋さんのお手伝いをされているんですよね。
はい。おかげさまで今ではすっかり元気です。
あと仕事のあり方を考えることが多かったですね。
特に設計担当の方が気難しい方で、その出会いも糧になりました。
どう伝えれば納得してもらえるかばかり考えていましたが、次第に準備不足に気がつきました。
お願いするばかりが仕事じゃないと自身で見直すようになり、そこからどんどんスムーズに仕事ができる工夫が自然と身につきました。
あとはとことん飲みに行ったり(笑)
徹夜に付き合ったりもしました。
独身だからできることだったな、と思います。
何があるかわからないじゃないですか。
なのでそこはすっぱり辞めました。
出産後は2年間はほとんど仕事をせず過ごしましたね。
働くことに生きがいを感じていたので、産後うつになったんです。家のことだけをしてゆっくりしすぎて、うつになるという・・・。
で、タイミングが悪いことに旦那さんも職場でのストレスで同時に同じような感じになり。
自分が産後うつになっている場合じゃないっていう(笑)
生後間もない赤ちゃん抱えながら旦那さんの退職届を出しに行ったりしました。
介護も育児も未経験が同時スタートに加え病気になるっていう(笑)
でも自分は産後うつなので期間的なものなのかなーっていうのはどことなくあったんです。
その後は旦那さんと一緒に病院の診察を受けて、医師と3人で対話するようになって、そこで初めて旦那さんの考えることがだんだんわかってきて・・・
あーこうすればいいのか、とか自分の反省点に気づいて。
私の方はまだ軽度だったので、お薬で早めに脱出できました。
ご主人は回復されて今は居酒屋の店主をされているんですか?
寝屋川で串カツ屋をしています。
今はイラストレーターとして活動しながら週末は女将として働いてるんですよ。
KAORINGOさんのプロフィール画像(ホームページより)
今までのご経験を考えると、イラストレーター以外にも色々できそうですね。
そうですね、幅広くできるかなと思います。
Webのお仕事ではWebデザインはお引き受けしておりません。ですが、Webに載せる画像制作のお仕事は増えてきています。
幅広くできるのが強みですね。今後力を入れていきたいことは何ですか?
自分のできる範囲だと、GIFアニメを作ったり、素材のデータを作ることも考えています。
イラストをちゃんとビジネスに持っていくっていうシステムを、自分の中に落とし込みたいっていうのが課題です。
代表作:南海電鉄の『世界遺産記念ラッピング車両』
KAORINGOさんのサイトの制作実績で南海電鉄の『世界遺産記念ラッピング車両』を拝見したのですが、とても印象的なイラストですね。
ありがとうございます。
こちらはご縁があって指名で依頼を受けて描いたものです。
堺で個展をした時、来場されたデザイン事務所の方が「こういう絵を描けるか?」「漫画を描けるか?」とお声がけくださったんですよ。
色々なタッチで描けるっていうことをいいと思ってくださったようで。
そこから南海電鉄さんの『まち歩きのWeb漫画』を書かせてもらえることに繋がりました。
その後、一時期音沙汰がなくなりましたが、堺の百舌鳥・古市古墳群が世界遺産に登録されることが決まった時に、「記念車両を作ることになったからスケジュール空けて!」と言ってくださって、それでバーっ!と描きあげました。
元々繋がりがあったので、そのまま指名をくださった感じです。
KAORINGOさんが描かれたはにわのキャラクター、かなりインパクトがあって面白いです。
KAORINGOさんのプロフィールの漫画風イラストと通じるものがあると思うのですが、制作実績のイラストを拝見していると、他にもシンプルなイラストや大人っぽい女性のイラストや本格的な風景画など、色々なタッチが描けるんですね。
そうですね。
子どもの頃から絵はずっと描いてたんですけど、仕事でいろんなメーカーさんと関わっていく中でオーダーに合わせたイラストを描く機会が多く、ニーズに合わせたタッチが描けるようになっていったんです。
画材もアクリル、水彩、油絵問わず大体できるかな。
彫刻ができないぐらいですかね(笑)
難しいことをわかりやすく描く
今後は今よりイラストのお仕事を増やして行かれるご予定とのことですが、営業活動にも力を入れられているんですか?
2月以降は営業にも力を入れて、アピールできる場所へ行ってみようと思っています。
自分のイラストのタッチでいくと、教材関係に持っていきたいと思っていて。
子どもの教科書を見ていて、例えば“これをローマ字で書きなさい”っていう問題の、“これ”にあたるイラストがわかりにくかったりするので、そういう所へもアプローチをかけていきたいです。
ゆるいイラストが一番得意で、難しいこともわかりやすいイラストで表現したいのが根っこにあるので。
自分のタッチが活かせるフィールドを獲得するためにターゲットを絞って出版社に持ち込みも考えています。
やりたいことがはっきりされているんですね。
そうだと思います。
イラストレーターさんって、このタッチなら〇〇さんって、絵を見ただけで作家さんがわかるんですが、私はどちらかというと色々なタッチを描き分けるので、商業イラストの方が自分に合っていると思っていて。
何でも対応できますよっていう風にプレゼンできる場所に売り込みに行こうと考えています。
そうなんですね。商業イラストは色々なタッチが描ける方がいいんですか?
そうとは限りません。
あくまでも私の場合は、リアルな絵を求められたら描いたり、イラストレーターの〇〇さん風のタッチで描いて欲しいなどのニーズにどんどんお応えしていくスタイルです。
“その場所”に一番適したイラスト
絵を描く時って何か見ながら描くんですか?
写真などの資料を見ながらもありますが、依頼を受けた際に私が気をつけているのはお客様がどう使いたいかを聞くことです。
どこに入れたいか、どう使いたいかとか。
お客様が何に使いたいかに合わせた絵を描くんですよ。
他にも印刷する紙面が白なのか、薄い色がかかっているのか。
それに合わせてタッチも変えるし、横に文章を添えるならどんなフォントを使います?っていうことも確認します。
ほとんど仕上がっている制作物に挿し込むイラストのご依頼があった時には、挿し込んで違和感のないイラストに仕上げるようにしています。
会社員時代のご経験がいかされていますね。
はい。POPをずっと作っていたので、目立たせたいメインのものを越えないようにというのがまず念頭にあります。
絵を描く時も絵を描く線が黒なのか茶色なのかだけでも随分印象が変わるので、色味を気をつけたり、線の太さを気をつかったりとか。
なのでイラストを描く前のリサーチがとても大事になってくるんです。
フリーランスは孤独?
フリーで活動されていると、孤独を感じたりしないですか?
どうなんでしょう。
孤独ではないですし、時には孤独も強みです。
私の場合、営業した先で印刷屋さんに出会うことができて。その印刷屋さんがカフェを経営されていて。
カフェでイベントやライブをやる時にチラシをやらせてもらえたんです。
今でもお付き合いもありますし、関係が近くなった分、印刷やデザインの中でもやったらダメなこととか、もっとやった方がいいこととか教えてくださいますし、時には怒ってくれたり、色々経験できる場所でもあるんです。
そうなんですね。
怒ってくれたり、色々教えてくれる場所ってとても貴重ですね。
はい。
イラストレーターとしてずっと今まで活動できたのはその出会いのおかげかなと思っています。
得意な漫画風タッチ
自分のタッチ
色々なタッチを描き分けられるKAORINGOさんですが、どのタッチが一番得意とかありますか?
一番早く対応できるのはホームページのTOP画像のゆるい漫画のタッチです。
他のタッチだとこうかな、ああかな、と考えて描くので少し時間がかかるんです。
漫画のタッチなら、例えば打ち合わせのその場で描けるぐらいのタッチなので、ビジネスとしては話が早くなるしスピードも上がる。お客様が違うって言われてもすぐ他を描けるタッチでもあるんですよ。
なので、それを主軸にすれば仕事のペースが上がるかなと思っています。
お仕事は何でも描けます。
個展を開いたりグループ展に作品を出品する時は自分の個性のあるタッチでいこうと、二極化するようにしていますね。
そうすることで、自分へのフラストレーションがなくなるので(笑)
個展は定期的に開催されているんですか?
昨年だけで3回やっていて。
ポンポンと決まったので、ありがたく乗っかりました。
3回も!すごいですね。
色々なタッチで描いた作品を出して“ひとりグループ展”みたいな個展をしました。
来場してくださった方に「このタッチで描いて欲しい」などお仕事のオーダーがいただけて嬉しかったです。
個展をすればするほど、「見ましたよ」とか「こんなタッチも描けるんですね」とか、次に繋がっていくのを実感しているのでやってよかったなと思います。
後は個展をしていく中で、自分はこのジャンルじゃないなっていう気づきも生まれる。
個展をやるメリットっていろいろあるんですね。
実は最初は個展を開くことに自信がなくて。
作家さんの個性で、タッチが一つではないと、イラストレーターとして認められないのかなってずっとあったので、そこに引け目も感じていました。
よくよく考えて見れば逆に何でも描けるんだったらそれをアピールしようかなって。
それで、ひとりグループ展をやってみたら、「ウチでもやってください」とお声がけをいただけるようになったんです。
グループ展を一人で開くってどういう感じなのでしょうか?
これまで手がけられた作品の一部
漫画っぽいイラスト、リアルなもの、細かいものだったり。
抽象画も描いたり、ウェルカムボードの似顔絵も描いたりとか、ペン画も。
色々なタッチで描いた作品を展示しました。
KAORINGOさんが展示会で出された作品を見せてくださいました。同じ方が描いたと思えないぐらい、本当に何でも描けるんですね。
イラストレーターさんでここまで色んな絵を描く方っていらっしゃるんでしょうか。
多分いらっしゃいますね。
私の場合は根っこの部分に自分の絵でできるだけ色んな人の気持ちが緩んだらな、っていうのがあるんですよ。
なので色々な方法で楽しませたいから、色んなタッチで描くんです。
他に立体も作ったりするんです。
立体ですか?
『弁当の日』の上映会で出展した立体アート
はい。この間はお世話になっているギャラリーで『弁当の日』っていう映画の上映会があったんです。
そこでお弁当箱の中身をデコレーションする立体アートを提供しました。
そのギャラリーはカフェも併設していて、食を大切にするということをコンセプトにされていて。
お子さんが上映会に沢山来るっていうことだったので、子どもが楽しめるように自由に貼ってお弁当を作っていくアートを考えました。
これ全部私のイラストなんですけど、おかずが全部マグネットになっていて、お弁当箱にもマグネットシートが貼り付けられていて、ピタピタくっつけて遊べるんです。
こんな風に子どもたちが自由に顔を作って行って。
めっちゃ楽しくないですか。
わぁ〜楽しいです。子どもも大人も楽しめるアートですね。
私は“お手を触れないでください”っていうよりは、“お手を触れてください”っていうアートをしたいんです。
お手を触れてくださいアートですか、面白いです!
学生の頃からずっと考えていたネタで、ずっとやりたかったんですよ。
多分POP会社にいなかったらこういう発想にいってなかったと思うんです。実際手に取るとか。
なるほど。
香りのテスターとかってあるじゃないですか。
シャンプーの会社も長期間担当していて、どうやったら手に取ってもらえるのか、角度とか位置、人間の導線を考えることも多かったので。
手にとってくださいって書かなくても手に取ってもらえる作品を作って触ってもらえるのがめっちゃ嬉しいんです(笑)
『ARTとお菓子の展覧会』2021.11.30〜12.11開催
立体のアート、色々できそうですね。
他にもお菓子の企画展の時に軽量粘土でクッキーを作って、丸いキャンバスにお皿を描いて、クッキーを貼って壁に飾ったり。
丸いキャンバスもあるんですね!
この女の子と猫のキャラクターはどこから生まれたんですか?
うちの子どもと、うちの猫です(笑)
そうなんですか!お子さん喜んだでしょうね。
どうかな、もう小さい頃からいっぱい描いているので、飽きているかな(笑)
Amazon電子書籍『カオリンゴ、ひなたぼっこ』
KAORINGOさんはAmazonで漫画を出されているんですよね?
はい。
漫画はずっと描き続けたいなって思っています。
私自身が子育てでつらい時に、よその子育ての漫画を読んで気持ちを上げていたところもあったので、私もそれができたらなーっていうのがあります。
体験漫画って勇気をもらえたりしますよね。私も時々読みます。
そうですよね。
今は私の母親が父親を自宅介護しているんですけど、その漫画を描こうかって話をしていて。
色んな事柄を緩くとらえるというか、難しい事柄もすんなり入っていくお手伝いができるイラストを描いていきたいので。
教科書とか教材関係、介護関係とか、堅苦しく重くなりがちな内容をもっと軽く捉えられるような、ちょっとくすっと笑えるような、イラスト素材を今後も提供していきたいです。
人の気持ちが緩むポジティブな絵
くすっと笑えるようなイラストを描きたいと思ったのは何ででしょうか?
うーん、結構今までネガティブなことが多かったので。
うつのこともそうですし、仕事ですごくしんどかった時期が続いてたんですけど、イラストレーターをやろうってなった時期に、ある方に「ネガティブなものって何にもいいことないやん」って言われたことがあったんです。
確かにって思ってからはもう前向くしかないし、ポジティブな絵を描き続けていたら誰かがそれに引っ張られてポジティブになればいいなーって思うようになって。
今はそんな気持ちでイラストを描いています。
今日はイラストレーターの仕事だけではなくて、人生についても深いお話が沢山聞けました。
貴重なお時間ありがとうございました!
この記事は2021年12日7日に行った取材を基に作成した記事となります。
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